チルド食品工場の空調、換気実施設計
15℃の作業室を想定して、実際の設計手順と注意点を記します。

菱熱工業株式会社
専務取締役 岡安晃一

製造する商品によって、食品の作業室を15℃などの低温で室温を設定する部屋が近年多くなりました。一般事務室の25℃の部屋と違って15℃の作業室とした場合に内装や空調で注意することがいくつかあります。
空気が含むことができる水分(水蒸気)の量が温度によって大きく変化するため、その量を適切に計算し結露を防ぎます。

空調能力

100㎡の作業室の温度35℃の空気を1時間で25℃に冷却するのに必要な空調能力は、約1kWです。10年間のデータを基にした、東京の夏季設計外気温湿度は34.8℃、相対湿度58.0%となっていて、便宜上35℃60%と考えて、これを25℃60%に冷却するためには空気中の水蒸気を冷却して除去することも必要になります。その冷却にはさらに約0.82kW、合わせて1.82kW必要になります。

図1

100m2の作業室に必要な換気

さらに計算に加えなければならないのが、屋外から流入する空気です。
部屋で作業をしたり、人が滞在する部屋には換気が必要です。建築基準法施行例では1人当たり1時間に20㎥、ビル管理法(建築物における衛生的環境の確保に関する法律)では1時間に30㎥の換気を求めています。3.3㎡に一人、30名在室すると少なくとも600㎥/hという数値になります。
換気する空気も冷却しなければならないので、600㎥/hの冷却に3.64kW必要になります。

図2

一般空調機の選定

10m×10m、高さ3mの作業室に空調機をつける時は、さらにどのくらいの熱負荷がかかるかを計算して必要な能力を算出します。外壁や仕切り壁から伝わる熱、室内で人や照明、機械から発生する熱などを細かく計算します。

一般的な断熱材の壁面から1時間に伝わる熱を冷却するためには、約0.77kW必要です。
照明負荷は0.5kw、在室人員の代謝による潜熱(水分)負荷は3.0kWと計算できます。
室内の機械の熱負荷は1.5kWと仮定します。
ここまでの合計で11.23kWとなります。 これらの値は建築条件によって変動するので、すべて想定値とします。

細かい条件を計算せずに空調機を選定する場合は、15kWか20kWの空調機を選定しますから、計算値とだいたい符合します。

15℃室の空調能力

25℃室のとき、35℃の外気の温度を下げるために顕熱負荷1.0kW、湿度を除去するための潜熱負荷0.82kW、合計1.82kWの空調負荷がかかりました。
15℃室のとき、35℃の外気の顕熱負荷は2.0kW、潜熱負荷は2.5kW、合計4.5kWとなります。
潜熱負荷、つまり空気中の水分の除湿量は25℃のときの3倍になっています。

15℃室の換気

空気の温度を下げるエネルギーに対して、空気中の水分を除湿するときのエネルギーは、単なるの温度変化に加え、水蒸気を液体に凝縮するための状態変化を伴うために多量のエネルギーが必要となります。
また、水分の凝縮が空調機の中だけで起こればドレン水として配管を伝わって排出されますが、湿度差、水分量が多くなると空間中や壁面、吹出し口の金具部分で結露が発生します。
15℃室にはいきなり外気を吹出さず、一旦、外気を冷やす外気空調機で事前に25℃以下に温度処理してから15℃室に吹出すことが通例となります。

また、屋外からの給気や屋外への排気が機械的に管理された状態であれば問題ありませんが、ファンの能力が落ちていたり、フィルターが詰まっていると給気排気のバランスが崩れてしまいます。
その場合、作業員の出入口や天井面の隙間から温度処理されていない外気が、想定されていない経路を通ってくるため、いろいろな場所で結露が発生します。
屋外の空気の流入経路も、慣れていればいくつかのポイントで管理できます。
低温室の設計はそういった例外的な部分で設計に経験が必要とされます。
室内の空調機も処理されていない外気の量が増えると空調能力が足りなくなります。 低温室は換気に対してクリティカルな状況にあります。

実際の低温作業室の運用

その建物の建築年限によって、同じ15℃などの低温作業室でも壁や天井の内装構造や、扉の構造は様々です。 室温などの環境維持の変動要素としてはこういった構造面から起因する熱負荷の変動、照明や機械発熱は変動が少ないとして、作業員の入退室など変動要素が増えていきます。
とくに換気については、先ほど記した機械の不調やフィルターの詰まりなどによって現実に変動が大きくなりますし、そもそも換気量の設定が不適切な場合が見受けられます。
低温作業室で洗浄や殺菌を行うケースも多く、大量の排気を行っていたり、排水経路にトラップを設けていない、といったケースもあります。
設置する空調機も天井面を1㎡切り欠く天井カセット式と呼ばれる事務所などに多いタイプの空調機を設置して、天井裏の空気と通じているケースも見受けることがあります。

安定した運用には、こうしたポイントを一つ一つ対策をしていって安定した室内環境を創り出す必要があります。
空調については温度センサーで運転を制御していますが、換気についてはON/OFFの制御しかしていなかったり、ON/OFFも行わないケースがります。
在室人員や熱負荷によって換気を制御することができれば空調負荷も減るので、おおきな省エネルギーにもつながります。 25℃の一般温度の作業室ではそれほど効果はありませんが、15℃室などでは除実に効果が出てきます。

さらに低温の作業室

5℃あるいは0℃以下などの部屋はほとんどが倉庫や保管庫ですが、まれに作業室もあります。
その場合にも屋外の空気を換気として導入しますが、さらに大きな容量の屋外の空気の処理が必要になってきます。
外気の空調処理も必然で、それもさらに低温度の処理が必要になり、もはや既製品の外気空調機ではカバーできない温度域になってきます。
少しの換気でも多くのエネルギーを必要とするので、その量も厳密に管理する必要があります。
冷蔵、冷凍室は立方体の部屋だけ断熱すれば運用できるのですが、そこに送風ダクトの断熱も厳密に行う必要が出てきますし、外気空調機全体も断熱が必要になります。
さらに吹出し口などの金属器具も断熱施工や、場合によっては結露防止ヒータの埋め込みなどが必要になります。
この領域は、一般の空調設計者が行えない領域になります。

まとめ

低温の倉庫などは比較的かんたんに設計、施工ができます。
作業室となると製品が次々に製造されることにより、原材料や製品の出し入れが発生し、作業員の入退場も発生するため、一気に設備が変わってきます。
排気フードなど大量の換気を設置しなければならない場合はかなりのエネルギーロスも発生します。
下面の開口部が1m×2mの排気フードの場合、1,000m3/hの排気が必要になり、想定外の風量が追加されることになります。

図3
生産工程の見直しも含めて最適な生産環境とすることが必要です。

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